「サハラに死す―上温湯隆の一生」を読んで旅に出たくなりました。

こんにちは、ゆーせーです。

ヤマケイ文庫から出版されている文庫本「サハラに死す―上温湯隆の一生」を読みました。

著者である22歳の青年、上温湯隆のサハラ砂漠横断という大きな夢に青春(というか生命)をかける情熱、無謀さ、未熟さに若さゆえのどうしようもない、どうにもならない激情に胸を打たれ、その早すぎるあっけない幕切れに衝撃を受けました。

素晴らしい手記(あるいは日記、この作品は本ではないとも感じました)でした。

どこまでこの作品を言葉にできるのかわからないのですが、同じ旅人の端くれとして著者ほどに無謀な旅はできていないのですが、ブログに書いてみたいと思いました。

この本を手に取ったきっかけ

自分は旅や写真が好きなので、冒険家や登山家、写真家の本が好きです。写真家の本ですら写真よりも文章の方が好きなことすらあります。

代表的なところで言うと星野道夫やジョン・クラカワー、沢木耕太郎や石田ゆうすけさんなんて大好きですね。

そういうわけでこの作品も昔から名前を知っていたのですが、ずっと手に取る機会がなくて読めていませんでした。

そんな中、たまたま昨年のアイスランド旅でドライブしている最中に、一緒に旅していた友人と好きな本はなにかある?という話になり、この作品のタイトルが友人から出ました。

その友人も相当な旅人だったので、読んでみたくなりついに図書館で発見して読んでみたのが今回です。

とにかく無謀なサハラ横断

この作品では若干21歳の青年、上温湯隆がアフリカ大陸の西の果て、モーリタニアのヌアクショットから東の果てのポート・スーダンまで、7000kmもの道のりをラクダに乗ってサハラ砂漠横断を試みます。しかも単独で。

しかしこのサハラ砂漠横断旅がとにかく無謀すぎる。

上温湯隆はこの旅の中でとにかく金がないです。そもそもアフリカのヌアクショットまでもお金がなくてロンドンからヒッチハイクや徒歩で入っています。

そのため、ラクダも二頭買う予定が一頭しか買えない。食料もお金がないので遊牧民や旅人などに恵んでもらったり、途中でラクダが衰弱死しても、お金がないから旅が続けられなくなる始末。

しまいには日本にいる家族や知人に金の無心までしちゃいます。

そして旅計画も無計画すぎます。本人は作品の中で計画は念入りに行ったと幾度も書いていますが、実際はお金がないことや食料計画の無計画さなどからトラブル続きで一向に先に進まない。計画通りに全くことが運ばない。

サハラ砂漠横断は調べた限り現代でも達成されていない偉業です。そもそも単独での横断を目指すにあたり、とにかく念には念を入れて計画を立てて実行に移す必要があるのにむちゃくちゃすぎます。

それでもこの作品の上温湯隆を応援したくなるのは、若さゆえの純粋さやひたむきさ、心の中の抑えがたい旅への情熱が文章から伝わってくるからだと思います。

「サハラに死す」では作品の中で「生と死の極限状況の中で自分の青春と生命をかけてみたい」や「だがサハラよ!俺は不死鳥のようにお前に何度でも命ある限り挑む」など並々ならぬ言葉が何度も出てきて、覚悟が半端ないです。

70年代から80年代は日本人の鼻息の荒い登山家や冒険家も数多く出現していますし、生まれていないのでぜんぜんわからないですが、そういう時代の雰囲気もあったのかもしれないですね。

作中の中ではこの先の人生をどのように生きるべきか苦悩する等身大の青年の心情も吐露しており、その心情に共感を憶えずにはいられませんでした。

ジョン・クラカワーの「荒野へ」との類似性

この「サハラに死す」ですが、読んでいてジョン・クラカワーの「荒野へ」という作品といくつも類似点があると感じました。

「荒野へ」の主人公であるクリス・マッカンドレスも上温湯隆とほぼ同年齢で、当てどもない放浪の末にアラスカの荒野で自給自足生活の末に倒れます。

「荒野へ」の著者の中でジョン・クラカワーや「サハラに死す」のあとがきで冒険家の角幡唯介が記しているように、今生きているという実感や生を肯定するために死を感じる、受け入れるという行為が必要だったんだと思いました。

自分の全生命をかけてどこまでやれるのか、どこまでいけるのか探ってみたい。

誰しも死ぬつもりで旅なんかしない、長生きもしたいだろう。でも死の神秘を少しでも感じてみたい。その先の生を感じたい。

そういう気持ちはすごくよくわかります。自分もあるし、誰しもが持っている感情ではないでしょうか。

自分もバックパッカー旅を10年以上続ける中で、最初はパック旅行に毛の生えたような旅から始まって、カメラと出会ったことでチベットや中央アジア、インドネシアの名もないような離島で木造船で鯨の手持ち銛漁を撮影するまでになりました(笑)

登山でもそうですね。難しい山を達成すればするほど、より難しい山に挑戦したくなります。

それは自分が生きているから、今ここにいるということを肌で感じたいから、証明したいからの行為だと思っています。

ちなみに6年ほど前に書いた「荒野へ」の感想は下記の通りです。

映画「イントゥ・ザ・ワイルド」の原作!ジョン・クラカワーの「荒野へ」を読んで考えたこと。

「荒野へ」は一人旅が好きな人間なら一度は読んでおくべき名作です。ショーン・ペンが映画化した「イントゥ・ザ・ワイルド」もあわせておすすめします。

冒険とは、可能性への信仰である

「サハラに死す」の中で上温湯隆は「冒険とは、可能性への信仰である」と述べています。上温湯隆が大好きだった言葉だそうです。

上温湯隆はサハラ砂漠横断を始めて約3000kmの地、メナカで渇死します。それこそ可能性を求めて、生命の最後まで冒険をしました。

渇死直前の手記は紛失しているので、その死の直前の心理などは分からず、作中でも母親の回想などを元に端的に綴られています。

ただし、母親の「人間の価値はその死に際で決まる。武士に学んで、潔く死ぬことを心にとめておきなさい」という言葉を胸に、立派に1本の灌木の下にわずかな身の回り品と共に眠るように亡くなっていたそうです。

その生命が惜しいです。

自分は早世した人々がもし生きていたらと考えることがしばしばあります。

星野道夫やスティーブ・ジョブズしかり、もし生きていたらこの人はどんな作品を生み出したのか、どのように生きたのだろうか、世界はどう変わったのだろうか、そんなことを考えたりします。

モロッコ アルケミスト

上温湯隆も生きていて欲しかったです。

高校を中退した上温湯隆はサハラ砂漠横断後は大検資格を取り、大学で勉強して国連スタッフになりサハラのために尽くす夢を描いていましたが、文章も上手いし情熱もあることからもし生きていればどういう人生を歩んでいたのか、どうなっていたのかと考えてしまいました。

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