今や世の中には星の数ほど写真を撮る人間がいます。
SNSにアップするためになんとなく撮っている人から、趣味で一眼レフを持って写真を撮る方、写真で生計を立てている方など様々な方がいます。
それこそ1日に何億枚もの写真が消費される中ですら、世の中を変えるほどの写真を撮れる人間はわずかしかいないのではないでしょうか?
今回はそんなわずかばかりの人間に数えられるであろう写真家をご紹介しようと思います。
なんと「神の眼」を持つ写真家と呼ばれ、世界的な報道写真家であり、大自然の保全や復元に尽力する環境活動家としても知られるセバスチャン・サルガド(Sebastião Salgado)です。
正直、自分が紹介するのもおこがましいようなレベルの写真家なのですが、写真家(特に海外の)って世界的に有名な方でも日本では無名なことって多い。というわけで少しでも日本での知名度を上げることに貢献したいと思い、記事にしようと思いました。
というか単純に素晴らしい写真ばかりなので、知らないなんてもったいないから紹介したいだけというのが一番大きな理由です。
セバスチャン・サルガドとは
セバスチャン・サルガドは1944年生まれのブラジル出身の写真家です。すでに現時点で70歳を超える写真家ですが、精力的に活動されています。
経歴
・幼少期はブラジルのミナスジェライス州の農園にて生活。なんと自給自足の生活で、父の家畜たちを屠殺場に連れて行くのに45日もかかったそう。
(とはいえ当時のブラジルの田舎はこういったスタイルが普通にあったようで、サルガドの父の農園には30組ほどの家族が住んでいたようです)
・サンパウロ大学の経済学修士課程を卒業後に民主化運動に参加、フランスに亡命
参考 アマゾナスイメージズ
・パリにて経済学の博士課程を卒業。エコノミストとして国際コーヒー機関に勤務。仕事でアフリカ各地を旅する。
・1973年(29歳の時)に国際コーヒー機構を辞めてフリーの写真家に転じる。
・1979年より世界一有名な写真家集団・マグナムフォトに所属
・1982年にユージンスミス賞を受賞
・1994年マグナムフォトから離れ、アマゾナスイメージズを立ち上げる。
・2004-2011年 「ジェネシス」(創世紀)というプロジェクトに取り組む
・2014年サルガドに焦点を当てたドキュメンタリー映画が完成し日本でも公開される。
約束されたキャリアを捨てる
セバスチャンサルガドの経歴を見るに特筆すべき最初のポイントはこれだと思いました。
約束されたキャリアを捨てる。
ずっと国際コーヒー機関で働いていれば安定した生活とお金が手に入ったはずです。しかし直感に従って真にやりたかった写真家の道を選んだ。そして成功した。
字に起こせば非常に単純な文章なんですが、これってなかなか選んでやれることではありません。普通の人であれば国際コーヒー機関での安定した道を選ぶはずです。これってすごいことだと思いました。
ちなみに写真は若かりし頃のセバスチャンサルガド。隣は奥さんのレリア・サルガド(Lélia Salgado)。レリアは17歳の時にサルガドに出会っています。今でも仲がいい、おしどり夫婦です!!
ちなみにレリアは建築家でもあり、サルガドの開く写真集や写真展のレイアウトも担当しています。
輝かしい写真家としての経歴
また、サルガドのすごいところは直感で選んだ写真家の道でちゃんと結果を出したことです。
1979年に誰もが羨む世界最高の写真家集団、マグナムフォトに所属。
1982年に人間性や社会性を重視した作品に贈られるユージンスミス賞を受賞。
1989年にハッセルブラッド賞を受賞するなど50以上の写真賞を受賞して今に至る。
さらにライフやドイツのGEO、ニューヨークタイムズなど名だたる雑誌と契約を結んで活躍していました。誰もが羨むような写真家人生です。
人間を嫌いになった写真家
サルガドは一度カメラを置いた写真家でもあります。つまり写真を辞めています。
1994年から始まった「EXODUS」と呼ばれるルポの撮影で、世界各地の難民や紛争、戦争を見る中であまりに残虐な人間を行いに人間に救いはない。生きる希望など見出せなかったと告白しています。
戦争、難民、虐殺の果てに人間の弱さと闇を見たわけですね。
この時期のサルガドは人間が自分自身に対してこんなに残虐になれるということが想像したこともなく、気分が落ち込んで悲観主義にはまり込んだと著書に書いています。
そして再生
EXODUSを経て、地球環境に目を向けます。
そしてそれまで人間を撮り続けてきたサルガドは撮る対象を大きく変えます。
動物や大地や空など、「地球」をまるごと被写体にするようになりました。
そして「GENESIS」と呼ばれるルポに結実します。
同プロジェクトでは、ダーウィンの足取りを辿ることをコンセプトに掲げ、今も地球上に残る未開の場所のガラパゴス諸島、アラスカ、サハラ砂漠、ブラジル熱帯雨林など、生と死が極限に交わる、ありのままの地球の姿がカメラに収め、人類が必ず守らなければならないものたちを提示しています。
なんともスケールの大きな話です!!
地球環境保護、難民の救済などなどスケールが大きな問題に対して真摯に写真を撮っているからこそ、人々の心に残る一枚に結びつくわけですね。
サルガドの写真表現
次にセバスチャンサルガドの写真表現についてご紹介。
ここまでも何点か写真を見せてきましたが、サルガドの写真はモノクロです。
2008年まではずっとフィルムを使っていたようでライカやペンタックスの645だったようですが、2008年以降はキャノンのデジタル一眼レフを使用しているようです。
とりわけ高齢ということもあってか、今でもデジタルファイルをネガに直して編集しているそうな。手間がかかりますね(笑)
なお、コンタクトシートもインクジェット紙に印刷しているとのこと。どこまでもアナログです(笑)
さて話を本題に戻しますと、モノクロだからこそサルガドの写真は陰影に映え、圧倒的な迫力と生々しさで迫ってきます。
また光の使い方が圧倒的です。雲の隙間から垣間見える太陽の光、人間の肌の陰影などまるで西洋絵画のレンブラントやカラバッジョのような光の使い方を駆使します。
そして極め付けは構図。どうしてこんな風に撮影できるんだ!?といった脱帽の構図の数々です。言葉では説明できないくらいすごいのでぜひお手に写真集を取って見てみることをお勧め致します。
しかしこれだけ世界各地で撮影されてきて、カラーで表現せずにモノクロで一貫してやっているというのは本当かっこいいです。
40年以上のキャリアの持ち主ですが、一貫して作風に統一感があります。
写真集と書籍の紹介
以下は写真集と書籍を紹介します。特に写真集はほとんどが洋書ですが、写真見るのに言葉はいらないので洋書でも十分楽しめますよ(o^^o)
簡単に日本でも入手しやすい写真集と私が持っている「GENESIS」を中心に。
Sahel
サルガドの最初期の写真集。サヘルと呼ばれるサハラ砂漠周縁の乾燥地帯に暮らす人々の飢餓の現状を、ダイナミックな構図で捉えた作品群です。
国際コーヒー機関で働いていた頃の写真も収録されているようです。
Other Americas
1977年~1984年にかけてブラジル、エクアドル、ボリビア、ペルー、グアテマラ、メキシコなどののラテンアメリカ諸国を訪れた写真集。
同地域における宗教、政治環境の変化が特に地場の文化と伝統的なライフスタイルに与えた影響をドキュメント。
Workers
1992年まで6年をかけて世界26カ国の労働者を追い続けた彼の代表作。撮影されているのは、農業、鉱業、油田、建設、穀物などの産業分野で働く労働者たち。
工業化社会における単純労働者への哀歌と言われています。
Africa
1980年代から現在までセバスチャンサルガド自身が約30年に渡ってアフリカで撮影してきたイメージを自らがセレクションした写真集。
この間に彼は40以上ものルポルタージュに取り組み、スーダン、ナミビアなどアフリカ各地の難民をドキュメントし、戦争の悲劇的な影響、貧困、疫病、などの現代アフリカの現状を伝えています。
Scent of a Dream
この写真集はGenesisより後に出版されたようですが、Genesisはこの後に詳しく説明するので先に記述します。
セバスチャン・サルガドは先にも書いたように世界コーヒー機関で勤務していました。その影響もあってか10年近くを費やし中国、コロンビア、グアテマラ、エチオピア、インド、ブラジル、コスタリカと世界中のサステイナブル(環境を保全しつつ持続できる)なコーヒー農園をドキュメントした写真集となっています。
Genesis
Genesisはサルガドが2004年から2011年の間に世界各地を撮影して地球の起源を辿った写真集です。撮影地は世界各地です。それこそ南極とかまで撮影に行っています。
一体制作費いくらかかっているんだろうかって感じですが、巨匠だからこそのなせる技ですね。
Genesisは自分でも購入したのでもうすこしご紹介。
もう当たり前なんですが、写真が綺麗すぎます。今まで人物しか撮ってこなかったサルガドが風景や動物も撮り始めるということで周りからはいろんな言葉(批判)もあったと思うのですが、そんな不安はまったくもって必要なかったわけですね。
モノクロだからというのもあると思いますが、まるでどのように撮ったかわからないような写真表現。なんとうかサルガドの写真集からは神々しい感じを受けるんです。
そしてそこが魅力だと思います。
そしてもちろん風景や動物だけでなく人物の写真も数多く掲載されています。人物写真ももちろん絶品。各地の少数民族を中心に撮影しています。
自分の足、セスナ、船、カヌー、気球などを駆使し、地球の秘境辺境を訪れた撮影旅行は計32回。そして約8年の歳月がかかっています。
7000円を超える写真集なので値段は確かに高いですが、写真集のサイズも巨大(7.6 x 25.4 x 38.1 cm)だし、517ページもあります。そして圧倒的にかっこいい写真だらけ。ボリュームを考えたら圧倒的にコスパいいです。
ぜひご自身の目で堪能してみてください。
わたしの土地から大地へ
サルガドは自伝も販売されています。(しかも日本語もあります!!)
あくまでサルガドが半生を語った独白を自伝形式にまとめて発売されたものですが、生い立ちからGenesisのプロジェクトまでよくまとまった本です。
翻訳の日本語がちとあれですが、サルガド好きには必見の一冊。
映画と動画の紹介
サルガドを知る上でGenesisプロジェクトの撮影に同行したドキュメンタリー映画やTEDに出演した際のプレゼンが日本語でもあるのでご紹介。
TED:セバスチャン・サルガド「写真が見せるサイレント・ドラマ」
2013年にTEDに登壇した際のサルガドのプレゼン。EXODUSからGENESISに至った心情を美しい写真のスライドショーとともにサルガド自身が紹介しています。
『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』
サルガドのドキュメンタリー映画の予告編です。なんと「パリ、テキサス」のヴィム・ヴェンダースが監督をしています。
実は私も未見なので、どこかのタイミングでみたいです。というかレンタルショップとかnetflixとかにもないのでブルーレイ購入しようか悩んでいます。
※そのあと、アマゾンプライムを使って鑑賞することができました!(アマゾンプライムでレンタル400円でした)
自宅のテレビでアマゾンプライムビデオが堪能できる!Fire TV Stickを購入!セットアップ方法も紹介します!もうとにかくヴェンダースの細部に渡るこだわりが垣間見えてとても美しい作品に仕上がっていました。
サルガドの世界観に沿ったまるで写真をみているかのような不思議な映画にしあがっていました。未見の方は必見です。
以上、長くなりましたが、セバスチャン・サルガドの紹介を終わります。
サルガドのような写真を自分も撮れるようになりたいです。サルガドのような巨匠の構図や光の使い方を写真集でどんどん勉強していきたいですね。
写真は日々勉強です。